三重県紀北町で採れた白石湖産の渡利カキ [旬の旨いもの]
「海のミルク」と呼ばれるだけにカキは海水で育てられている。
これまで各地のカキを食べたり、取材してきたが、
ときに淡水になる汽水湖で生産しているカキを初めて食べた。
三重県紀北町にある白石湖で育てられている「渡利カキ」だ。
白石湖は熊野灘と接しているのだが、船津川と銚子川の清流が流れ込んいる。
*右が,熊野灘。中央の窪んでいるのが白石湖だ。
熊野古道で知られるこの地域は雨が多い。
取材に行った2日前、三重県を襲った台風19号の影響で
白石湖の水はほぼ真水。
船に乗り、あちこちで水をなめてみたが、まったく塩気がなかった。
こんな淡水でカキを育つことができるのだろうかと心配になったぐらいだ。
熊野灘の海水が入ってくると、カキはプランクトンを取り込む。
取材日のように淡水だと、殻を閉じ、じっと耐える。
そのため、エネルギーになるグリコーゲン(糖分の一種)を貯めこむため、
渡利カキは甘みを増すのだそうだ。
生産者の畦地水産の畦地宏哉さんによれば、
渡利カキはフライにすると、その特徴がはっきりするという。
地元の喜久寿司に伺い、渡利カキのカキフライを食べさせてもらった。
海水を含む量が少ないせいか、カキ特有のエグミや苦味がない。
名物のカキの佃煮を使ったカキ寿司もいただいた。
ワサビの代わりに、洋がらしを塗るのが特徴だ。
カキ寿司はカキの養殖業者が保存食として作っていたという。
後日、畦地さんに殻付きの渡利カキを送ってもらった。
取材時はまだ粒が小さく、食用には適していなかったからだ。
生で食べると、よりこの汽水湖で育てられたカキの特徴が明確になる。
カキのキモが持つ苦味がまったくない。
むき身も届いたので、カキフライを作ってみた。
甘いし、エグミがない。
ときに淡水になる汽水湖で、
まるでいじめられるように育てられたカキは、
海水で育成されたものとはひと味もふた味も異なる。
12月10日発売の『旅の手帖1月号』の連載「食べ旅」で取材しました。
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